「名手名言」1992年11月10日 山川静夫

イメージ 1 NHKの名アナウンサーのエッセイです。いろんな分野の一流の人から聞いた明言を綴っています。
 バイオリンを通じて才能教育研究会を主宰する鈴木氏からの話ですが、日本中のどのような子供でも、わずか45歳で三千、四千もの日本語を自在に操ります。しかし、学校へ入ると学問という形の中で優劣がついていきます。高度な日本語を自在に操れる能力がどんな子供にもあるのであれば生まれながらにしての優劣はなく、学力などは子供の育つ環境ひとつで決まるのだという確信したそうです。東北の人から見ると難しい大阪弁を、大阪の子供はみんな巧みに喋れるし、逆に大阪人にとって難しく感じる東北弁も同様です。環境と育て方が問題で、育て方のコツは“繰り返すこと”で、生まれた国の言葉が上手いのは、知らず知らずのうちに繰り返しているからなのです。すべての子供が、より高いものの中で自然に育つことこそ、良い環境と言えるのでしょう。
 私も大好きなサックス奏者の渡辺貞夫氏は、同じアルトサックス奏者のチャリー・パーカーをこの上なく尊敬していたそうです。チャーリー・パーカーの演奏が高度な技術を持っていることは確かですが、ごく自然で、自由奔放、さりげなくサックスを吹いていながら、とても豊かなイマジネーションを持っているとのことです。「とにかく、チャーリー・パーカーは何から何まで、ぜんぶいいんだ。すごく人間的な暖かさを感じさせる。嫌味なところがないというか、てらいがない。ほんとうに演奏が素直で、とてもいい人ではないかと感じさせる。自然に自分の歌を歌っているという感じで、少しも叫んだりせず、のびのびと唄っている。彼自身なのだから自然なのだ。」“この人はいい人だなあと、しみじみ感じさせる演奏なのだそうです。あらためて聞いてみたくなりました。
 「三百六十五歩のマーチ」を作詞した星野哲郎氏は、「自分の人生は、よそ様より遠回りして随分歩いたつもりだったが、考えてみればしょせん、一日一歩しか歩いていなかった。でも三日あれば三歩あるけるのだし、二歩下がっても一歩は進んでいる。この気持ちを忘れてはいけない。とにかく前向きに努力することが大切で、望みを捨ててはいけない。」という哲学だそうです。
 女性宇宙飛行士で心臓外科医でもある向井千秋さんに、好きな言葉をノートに書いてもらいました。「ケ・セラ・セラ」、懐かしいドリス・デイの歌です。“なるようになる”ですか?と聞けば、「なるようにしか、ならないのね」と、向井さんはケロッと答えたそうです。

淀川長治さんが知人の秋田のお坊さんからもらい、いつも口ずさんでいた詩は、
一つの言葉でけんかして 
一つの言葉で仲直り
一つの言葉でお辞儀して 
一つの言葉で泣かされた
一つの言葉はそれぞれに 
一つの言葉をもっている
だそうです。