「自殺」 2013年11月1日 末井昭著

イメージ 1 すこしびっくりなタイトルですが、第30講談社エッセイ大賞受賞した本で、帯タイトルは「母親のダイナマイト心中から約60年。笑って、脱力して、きっと死ぬのがバカらしくなります。」です。著名人の選評は、
・どこまでも率直な末井さんの言葉には、それゆえ何かを変える力があります。(岸本佐知子
・堂々たる人間賛歌、自己肯定の本である。読み終わった後、「いやあ、まいりました」とつぶやいていた。(林真理子
・優しい末井さんが、優しく語る自殺の本(西原理恵子
・自殺について語るには資格がいる。(・・・)有資格者でなければ据えることのできない視点がそこここに見える。(東海林さだお
・自殺と自殺者を決して見下さずにおずおずと近づき、正論では救いきれない人間の業を見る。(・・・)これは稀有な人生読本なのだと私は思います。(酒井順子
・とてもじゃないが笑ってはいられない過去を、迷いもなく「おもしろい」と言わせるところに著者の破格の魅力と説得力がある。(・・・)美化もせず、責めもせず、否定もせず、ひたすら寄り添おうとする態度の公正さ、率直さ。そして無類の優しさ。(平松洋子
・キレイゴトじゃない言葉が足元から響いて、おなかを下から支えてくれる。また明日もうちょっと先まで読もうときっと思う。(いとうせいこう
 
 筆者のお母さんは小さい時にダイナマイト自殺したそうです。そして筆者は、工場で働いたり、キャバレーで働いたり、ピンサロの看板屋、エロ本の挿絵や編集者、ずっと社会の底辺のようなところを彷徨ってきたと話します。ども、そういう話もみんなが面白がってくれることがわかって、暗くなりがちな自分の体験も明るく話せるようになったそうです。社会的にはマイナス要素のようなことでも、それでみんなに笑ってもらったりすればプラスに転化できるのです。身勝手な母親を恨む気持ちもあったけど、いまでは母親は映画の主人公のようになり、今はいとおしく思えるそうです。この「自殺」の連載を始めて、自殺する人のことをあれこれ想像するようになったのですが、母親のことを思うように、自殺していく人がいとおしくて可哀そうでならなくなっているそうです。自殺する人は真面目で優しい人、考え込んでしまって深い悩みにはまり込み、感性が鋭くて、それゆえに生きづらい人です。だから世の中から身を引くという謙虚な人で、そういう人が少なくなってくると厚かましい人ばかりが残ってしまいます。本当は、生きづらさを感じている人こそ社会にとって必要な人で、そのような生きづらさの要因が少しずつ取り除かれていけば、社会は良くなります。取り除かれないにしても、そのような人同士が悩みを共有するだけでも、生きていく力が得られます。だから、生きづらさを感じている人こそ死なないで欲しいと言います。自殺しようかどうしようか迷っているのであれば、そこまで自分を追い込んだらもう充分です。それまでの自分とはもう違うのです。今がどん底だと思えば、少々のことには耐えられます。そして、生きていてよかったと思う日が必ず来ます。それでも思いとどまれなかったら、とりあえず明日まで待って下さい。その一日が、あなたを少し変えてくれます。ほんの少し視点が変わるだけで、気持ちも変わります。そして、いつか笑える日が来ます。きっと・・・。そう筆者は語りかけています。
 たとえば、大嫌いな人がいるとします。「あんなバカと付き合えるか」と思ったりして、そういう傲慢な自意識のせいで孤立して、人はみな孤独なんだと思っていました。しかし、自分もバカだと思うようになってからは、好きになる人がたくさんできて楽しくなりました。人はそんなに大差ないのに、自分だけは特別だと思うことが、生きづらさを招きます。それを正しいと思い込まされ、頑張って頑張って頑張りぬいてヘトヘトになっている人も多いと思います。そういう人は孤独です。本当に愛せる人がいないと干からびてしまいます。相手の中に自分自身を見ることができれば、その人を本当に愛せることができます。そして、孤独ではなくなり、ウキウキした気持ちになり、周りにもいい影響を与えます。愛する人がいれば十分で、そのことに真剣になれば、あとのことはいい加減でもいいのではないかと思います。
 人間ドッグの時、胃カメラの番が来て麻酔の点滴を受け、意識がスーッと無くなりました。目が覚めると検査は終了していましたが、おそらく死ぬ瞬間もこういう感じではないのでしょうか。僕は自殺はしないほうがいいというようなことを書いているぐらいで、死にたいと思っているわけではありませんが、遅かれ早かれ肉体の死はすべての人に訪れます。それが苦しいものなら、どんなに楽しい生活をしていても、最後は苦しんで死んでいくというという恐怖があります。しかし、ここからは憶測ですが、死ぬ時に気持ち良くなるように人間はできているのではないかと思っています。そう考えると、死はそんなに怖いものでもなくなります。怖いのは「無」になっていくという思考の方ですが、そんなことも死の直前にはスーッと消えるような気がします。
 親しい人が亡くなるのは本当に悲しいものです。自殺の一番の原因は病苦だそうですが、たとえ辛くても、生きているのではなく生かされていると思って、自分で自分を殺すことだけはやめて欲しいと思います。でないと、残された人たちにさらに悲しみを残すことになります。病気になってつらかったり、周りに迷惑をかけているとか、何もできないと思ったりしても、「病室の窓を開けた時にふっと入り込んできた小さな風に気持ちよさを感じられることができれば」命があることを喜べるのではないかと思います。私も一度ガンになりましたので、いつかまた再発して「もう諦めて下さい」と言われるかもしれません。死ぬ時はいつ来るのか、死ぬ瞬間はどういうものか、それを最後の楽しみに取っておきたいと思います。