「思考スピードの経営」1999年4月2日 ビル・ゲイツ

イメージ 1マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが予言した未来です。20年近くが経過して実際の世界はどうなったか、たいへん参考になります。
「ビジネスはこれからの10年間に、これまでの50年間に起きた以上の変化を遂げていく。1980年代は品質が問題となった時代で、90年代以降はリエンジニアリング(業務の根本的改革)、これからの2000年代は速度が課題となるであろう。ビジネスの性格がどれだけ早く変化し、どれだけ早く実行されるか、情報へのアクセスが消費者のライフスタイルをどのように変えるかということが問題になってくるであろう。そして、品質改良とビジネス・プロセスの改善はケタ外れの速さで進むだろう。つまり、業務を円滑かつ効率的に運営し、緊急事態や新たな機会到来に敏速に対応し、貴重な情報を社内で必要とする者に直ちに伝える能力、そして決定を迅速に下して顧客とうまく交流することを可能にするであろう。
 これから成功する会社は、仕事のやり方にデジタル機器を使って再創造し、決定を迅速に下し、効率的に行動し、顧客と積極的に直接接触していくであろう。
「ナッレジマネジメント(社内の情報を共有化して問題解決等に役立てること)」のために販売データもオンラインで処理し、特徴の把握、分析を共有できるようにする。ビジネス分析はパソコンを利用し、製品・サービス・利益性について高度な思考をめぐらせ、財務データを分析し、それに基づいて行動するように社員を訓練、単純労働を従業員のスキルを利用する付加価値業務に転換する。
ジャストインタイムへ転換して、情報を時間と取引する。顧客との取引から中間業者を締め出す。情報をいかに収集、管理、活用するかが、ライバル会社と差異化する最も重要なことである。社員の管理関係のニーズ(福利厚生、経費申請、給与など)は、90%以上がセルフサービスで処理できるようになる。
付加価値のない仲介業者は消滅する。例えば、単にチケット予約する旅行代理店はやっていけなくなるが、ワイン生産地ツアーなどの顧客ニーズにきめ細かく対応する会社は今後も高い需要が見込めるであろう。
ウェブはコミュニティづくりの理想的な手段で、ウェブを自然に利用するライフスタイルやワークスタイルがもたらす社会的影響は計り知れない。企業や政府ではなく、消費者や市民が主人公になっていくのである。多くの知識労働者が自分の住みたいところに住み、自分の望みどおりに仕事を組み立てながら、ワークスタイルの選択権は労働者が握るようになるのである。優れた人材の獲得競争はますます激しくなる。
「数字をつかむ」ことは、ビジネスの基本的な指針である。マーケティングや販売にも利用できるのである。顧客との係わり合いのすべての時点で詳細な情報を集めて、トレンドやパターンを追跡して統計にまとめ、そのデータが何を意味するかを理解する必要がある。その際に、正確さを期すためにデータを発生時点からデジタル化しなければならない。大量広告から的を絞った広告への移行が重要で、そのためには顧客の購買パターンについて精緻な分析を行い、所得、年齢層、地域その他の人口動態から見て、どのセグメントが最も利益をもたらしそうか判断できるようにしなければならない。そのためにも、従業員が簡単にアクセスでき、概要から詳細なデータへ進めて、さまざまな視点からデータを見ることができるようにする。
「注文生産」は、車から衣料品、家具にいたるその他の製造業でも重要な要素になるであろう。システムを情報の流れ中心に構築し、情報ツールを生産ラインの労働者に与えるやり方が莫大な価値を生み出すので、従業員がデータにリアルタイムでアクセスできるように、そして製品の品質を改善できるようにする。また、生産システムをその他のシステムに統合できるようにして、たとえば生産プロセスからデータを取り出して在庫管理に利用したり、生産を販売と調整できるようにする。最小の従業員で、最小の「ハンド・オフ」にすれば間違える機会をそれだけ減らすことができるので、プロセスをできる限り単純化すべきである。そして、職人技に主に頼ることのないような、明確なプロセスを構築する。いくつかの独立した比較的小さなプロセスから大きなプロセスをつくり、これらをリンクして効率的なシステムを作る。システムを動かしつづけるための比率をますます小さくし、新しいビジネス・ソリューションのための比率をますます大きくするようにする。
患者と医師に新たなコミュニケーションの手段を提供する。遠隔地治療や、別の医療機関に患者のデータを簡単に提供できるようになる。教育分野では、ますます多くの情報を入手、検証することによって、生徒たちは情報源を批判的に眺め、独自の判断を下せる能力をますます強めるようになる。教科書中心の学習から、コンピュータで仮想現実を体験するような学習法に変わっていくであろう。教師たちは、もっと深みのある教材や個性的な教育法の開発に時間を割けるようになるだろう。
 情報技術の能率向上により最も利益を得るのは消費者であり、デジタル方式の採用で競争相手よりも早く先端的なソリューションを構築するような企業である。新しいやり方は、情報技術を使って会社の行動様式を変えることで、ビジネスをほとんど瞬間的に対応できるものにし、戦略的思考を継続的で相互作用的なプロセスとすることである。それぞれの顧客には統一的に対応して、その顧客にかかわるビジネス取引をすべて記録しておくべきである。絶えず変化するビジネス環境をつくり出しているアメリカ企業は、デジタル技術の採用において他国の企業よりも進んでいる。その理由は、リスクを冒すことに対する前向きな姿勢、個人への権限付与、労働力の移動性など、いくつもある。通信コストの低下や広大な均質市場なども助けになっている。しかし、永久に安泰ではない。どの国も世界のほかの場所で行われている最高の慣行を研究しなければならない。
 われわれが積極的になり、いまここで未来を理解し、変化を取りこもうとするならば、予想外のことに対する考え方は、前向きで高揚的なものになり得るだろう。