「赤めだか」 2015年11月21日 立川談春著

イメージ 1 天才立川談志が絶賛した弟子の立川談春のエッセイです。最近はテレビドラマのルーズベルトゲームで悪役をやり、すぐに続いた下町ロケットでは善人の経理部長の役をやり、落語の世界を知らない私にとってはこの人誰なんだろうと思っていました。素人には知名度が無くてもドラマ出るくらいなのだからそれなりの人なんだろうと思っていましたが、弟子を褒めることなんて滅多にない談志が「お前上手いね」「見事に家元を踏襲して己を出している、ここまで演れるのなら家元はもう要らない」と言わしめた人です。競艇選手になろうとして身長が高すぎて断念し、談志の落語を見て感激して高校中退して弟子入りします。初めて聞いた談志の「芝浜」は、聴く者の胸ぐらをつかんで引きずり回して自分の世界に叩き込むような、他の落語家とはまったく別物の芸で、好き嫌いや良否を考えるスキも暇も与えてくれないものだったそうです。50分が過ぎて聴き終わったあとは、しばらく立てなかったほどだそうです。聴いた客たちで、思いつめた顔でうつむきながら帰って行く人は一人もいなく、物凄さを感じたそうです。破天荒な師匠とすっとぼけたような弟子たちの日常のやり取りが淡々と書かれてます。しかし師匠の暖かい人間味のある気遣い、それがとてもほんのりと、じわっと伝わる文面です。談志はテレビで見るように無茶苦茶な印象がありますが、弟子には丁寧に指導し、談春に対して淡々とした口調で小噺を始めますが、彼は聞いて圧倒されました。高座とは全く違って声を一切張らず、ただぼそぼそ喋っているだけで、普段のようなギャグもないのに笑いをこらえるのが辛くなるくらい面白い。漫談以外でこんな面白い談志を見たことがなく、いったいこの人にはいくつ芸の引き出しがあるのだろうと思ったそうです。「・・・よく芸は盗むものだと言うがあれは嘘だ。盗むほうにもキャリアが必要なんだ。最初は俺が教えた通り覚えればいい。盗めるようになりゃ一人前だ。時間がかかるんだ。教えるほうに論理がないからそういういい加減なことを云うんだ。いいか、落語を語るのに必要なのはリズムとメロディだ。それが基本だ。」「それからな、坊やは俺の弟子なんだから、落語は俺のリズムとメロディで覚えろ」と指導され、談春はプロの凄さを初めて知ったそうです
解説者が談春を最初に見たときは、角ばった、ちょっと凄みのある顔をした噺家が登場し、マクラ代わりに「桑名船」を演ったと思ったら、いきなり「札所の霊験」という厄介な席を始めました。驚きましたが、本人はまったく動じることがない。口跡がさっぱりしていやみがなく、大ネタと感じさせない余裕ある話しぶりに地力の深さを感じさせ、しかも途中で脱線しておいて、一瞬にして円町人情噺の世界に引き戻すという、余人のできることではない、とてつもない才能を秘めた噺家を見つけたと、その日一日興奮が冷めなかったと評しています。付き合いを重ねるごとに、大袈裟でなく、談春の時代をともに生きる悦びを実感したと言います。