「リンゴが教えてくれたこと」木村秋則

イメージ 1十年近い極貧生活を耐えて「奇跡のリンゴ」を成功させ、無農薬栽培を日本のみならず全世界に広めている木村さんの本です。
 耕作放棄地が増え、農業の荒廃が進んでいますが、若い人たちが参入できる楽しくて希望のある農業があるとすれば、その一つは木村さんの農薬も除草剤も使わない自然栽培ではないでしょうか。自然栽培の野菜は、一般野菜や有機野菜で育てたものに比べると腐りが遅く、最後は干物のようになります。あるレストランのシェフが私のリンゴを購入し、二つに割ったまま冷蔵庫の上に放置したところ、二年経っても腐敗せず、干からびた状態のままなのにフルーティな香りが残っていたことに驚いて、「奇跡のリンゴ」だと思ったそうです。
 窒素、リン酸、カリ等を使用しないと弱って生育が止まるという常識、農薬なしには病虫害の駆除は相当難しいという常識に反して、何の栄養も施さないのに木村さんの育てるリンゴや作物の樹勢は極めていい。農薬や殺菌剤を混ぜて散布していたころは、農薬を攪拌する手について皮が剥げたり、やけどしたりしていましたが、発がん性の強い農薬は現在、発売禁止になっていますが、農薬はそれほど怖ろしいものなのです。農薬や肥料の力はすごく、コメの収量はそれらを使ったから増えました。しかし、私たちは農薬や肥料を使い過ぎ、頼り切ってしまいました。農家の人たちは1万円の売上に、肥料、農薬、機械に7千円もかかっていますが、自然栽培は肥料も農薬も使わないので、半分の5千円の売上でも経費を千円以下に抑えられます。どっちが得でしょうか?
 リンゴを実らせるのはリンゴの木で、米を実らせるのはイネです。人間はそのお手伝いをしているだけで、私ができるのはリンゴが育ちやすいような環境づくりのお手伝いをするぐらいです。どうしたらイネが喜ぶでしょうか、田の力を引き出すことができるのでしょうか?たとえば、田んぼは乾かしてから粗く耕しますと、収量に大きな差が出ます。乾いた土では好気性菌が働き、湿った土では嫌悪性菌が働くからです。肥料もやらない方の根が太くなります。肥料を与えると根が小さくても生長しますが、そうなるとイネは過保護になって節も脆く、イモチ病などの発生につながるのです。ところが、自然栽培のイネは最初から肥料を何も入れてないので栄養が切れることはなく、収穫直前には肥料を与えたものとまったく見劣りしなくなるのです。近年の研究では、肥料を横取りすると言われてきた雑草が、それどころか逆に土を造っていることがわかりました。雑草は、畑に与え過ぎた堆肥の成分、栄養を雑草に吸い取ってくれるなど、土にとってすごくいいのです。人間は生産を追求した結果、土壌のバランスを崩し、害虫までも呼んでいるのかもしれません。