「ジーノの家」内田洋子

イメージ 1日本エッセイストクラブ賞講談社エッセイ賞を平成23年ダブル受賞した初めての作品で、作品の持つ広がりと奥行を如実に示しています。筆者は1959年神戸生まれで、東京外大イタリア語学科を卒業し、イタリア在住30年余というジャーナリストです。イタリア10景という副題で、北イタリアを中心にそこで暮らす人たちの生活をスケッチのように淡々と描いてますが、エッセイであるにもかかわらず、短編小説や映画の一場面を見ているようなあっと驚く展開が待ち受けています。イタリアの一般的な人たちの温もりや息づかいなども活き活きと伝わってます。筆者はほんとうにこのような経験をしたのであろうか?フリージャーナリストであるから、好奇心の趣くままに未知の世界に飛び込んでいけるのだろうか。日常的に起こるちょっとした事件、イタリアらしい危険なゾーンであったり、イタリアの中でも北部と南部で豊かさにも大きな差があることや、シチリアはもう一つ違う風土であることなどが良くわかります。人物描写においても、衣や食に関する描写は多彩で味わい深く、さらに住まいや建物、植物などの自然、風景も非常に豊富な言葉で表現されていて、上っ面の旅行案内ではなく、小説のようにその国の実際に生活している人たちが真に迫ってきて、まるでイタリアで自分も実体験しているような、そのような深い印象を与えられるのです。それだけでもこの本に接する価値があるのですが、筆者は彼らに接して、関わって、さらにはちょっとした事件に関わり、そして最後には小説のような結末が用意されている。なんだかフィクションではないのかと疑ってしまうほど見事な結末が待っているのです。どこからか小説になってしまったような、そんな錯覚を感じる不思議なエッセイでした。