謎の1セント硬貨

「謎の1セント硬貨」向井万起男
イメージ 1宇宙飛行士の向井千秋さんの旦那さんです。慶応病院で病理診断されてたお医者さんですが、とてもユーモアに富んだ面白い方です。挿絵の写真を見ると、一見、ベテランの浅草芸人かと思うユニークな風貌ですが、物事の分析はさすがにキレてます。
アメリカで感じたいろいろな疑問を、関係者にメールで徹底的に問い合わせ、それへの回答、アメリカ人の反応が現在の民族性を理解する上で非常に面白い本です。
 ポパイ像が有名な小さなアメリカの町に寄った時、たまたま第二次大戦で日本人が強制収容されたキャンプ跡に出くわし、後でそれに関するホームページを調べてみたところ、「仕方がない!」という日本語の見出しで高校生がレポートしているページを見つけ、どのような動機や意味なのかメールで質問したところ、その高校の先生から返事がきました。その先生はかつてアメリカ空軍将校で、日本にも14年滞在して日本人女性と結婚した人でした。アメリカが日本人を強制収容したのは不幸で不公平な出来事だと思い、これを自分が受け持っている自分のクラスの生徒に勉強課題として与えて、ホームページも立ち上げたとのことでした。その先生からの返事は「かねてから、生徒に限られた時間内で歴史上大事な事をすべて教えることは難しいと痛感していた。そこで私は授業の中で、しばしば見落とされがちなことについて生徒自身が学ぶようにさせようと決めた。強制収容所で過ごした日系人の友人が何人かいる私は、アメリカ人はこのような不当な出来事について知る必要があるし、こうしたことが二度と起こってはいけないと考えた。そこで、この問題を生徒たちに課題として与えた。生徒たちはこの問題について自ら勉強し、ホームページのデザインも自分たちで考えた。このホームページにはたくさんのメールが届いており、戦時にはこのような強制収容所が必要だったという人も少なからずいる。しかし多くの人は、アメリカ人は二度とこのようなことをしてはいけないと同意してくれている。また、多くの日系アメリカ人は、私たちがホームページを立ち上げたことを喜んでくれている。」この回答に、筆者はメールで感謝の意を伝えた。日本人強制収容所というものが存在したことを知らないアメリカ人が実に多い。この先生のように学校で若者に教えなければ、こうした事態は変わらない。彼は日本人が強制収容されたことを「仕方がない!」ことだったと簡単に片づけてしまっているわけではなく、人目を引くために使ったに過ぎないのだ。
 また、サウスウエスト航空にも質問メールを送っている。職員がカジュアルな服装をしていることに対して親しみを感じているが、なぜパイロットだけは制服のままなのか?さらに、なぜ機体全体を茶色に塗装した飛行機があるのか?まるで“うんち”みたいな色ですよ、と質問した。1ヶ月後に封書が届き、失礼な質問に怒りの回答がきたのかと身構えたが、そうではなかった。パイロットだけが伝統的な制服を着用しているのはプロとしてのイメージが理由で、一般大衆はパイロットがカジュアルな服装をしているのを望まないだろうと考えたとのことだった。機体の色がまるで“うんち”みたいだという質問には、「そうお感じになったのはたいへん残念です。そのような言葉を使われたのはユーモアだと思っていますが。機体の茶色はサウスウエストに沈む太陽の色を表わしており、私たちの色の選択は実に適切だと思っています。ある調査では、その航空機の識別が他のどの会社よりもわかりやすいと評価されています。」という内容だった。その回答に私も異論が無かった。ただでさえ忙しいだろうに、私のいい加減な質問に対してふざけず、怒らず、正面から堂々と答えてくれた、こういう会社は信用できると思った。ただ、なぜかそのしばらく後にサウスウエスト航空は機体の色を大幅に変更し、茶色の機体はなくなったらしい。私が“うんち”みたいだと言ったのが理由でないことを願っているが、と笑わす。
 アメリカで奥さんとはドライブをよくするそうですが、その時にマクドナルドのトイレをよく拝借するそうです。無料で使い易い構造になっていることについて、アメリカのドライブ旅行の面白さをみんなで共有しようという評判のホームページに問い合わせたそうだ。「アメリカでドライブしている時に、しばしばマクドナルドで食事します。ところが、食事をせずにトイレだけ使うこともよくあります。そういうとき、私はマクドナルドの優しさをいつも感じるのです。トイレは従業員に気づかれずに到達できる場所にあるからです。マクドナルドはこれを意識しているのでしょうか?それともたまたまなのでしょうか?」これに対してすぐ返事が来た。「マクドナルドは店で何も買わない人でもトイレを使って構わないという非常に心優しい方針を実践しているんだ。でも、よくよく考えるとそれも当然なんだよな。だってアメリカじゃ誰でもがマクドナルドで食事してるんだぜ。ということは、誰かがどこかのマクドナルドで排泄するってことは、ソイツがその前に他のマクドナルドで食ったものを出しているに過ぎないわけだよ。となりゃ、マクドナルドの方針は当然だと思わないか?」まさに爆笑ジョークで返してきた。この理論が正しいかどうか、マクドナルドがどういうつもりかはわからないが、結果だけ見るとマクドナルドは凄いとしか言いようがない。和食党の筆者をいつの間にか店内に引きずり込んでハンバーガーまで食わせているんだから。悔しいが見事だ、と結んでいる。
このようなアメリカ人もいるのだということ、アメリカ人の素顔にふれることのでき、それを筆者独特の抜群のユーモアで紹介する、実に面白い本でした。