1994年1月22日「大菩薩峠」

1994122日「大菩薩峠(計5,140円)
6:45奥多摩駅JR880円、コーヒー110
6:55発バス960
8:00丹波
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イメージ 2  藤ダワへのほんの最初の登りで、すでに道なきところを雪の中ラッセルして進んで体力を消耗してしまい、その上に左足の太股が痛み始める。
イメージ 39:20藤ダワ  藤ダワへ登り切ると、そこからは丹波役場前の道と合流して少し歩き易くなる。山の反対斜面は太陽をまともに受ける上、杉木立なので、雪は比較的少ない。しばらくは快適な山旅で、杉の間から太陽が射し込み、杉の木に積っていた雪がスターダストのように舞ってキラキラ輝いている。神秘的でとても素晴らしい。ここまでは良かったが、それからが大変で、あてどもない雪をラッセルしながら進む。追分の峠のようなところにあと20メートルくらいになっても、一気に進む気力がなく、先を見ずに真下の足元を見ながら一歩一歩を我慢しながら出す。
11:00追分1337m雪の中、ラッセルで進む。
イメージ 4  地図とにらめっこするが、こんなことは初めてだ。等高線を読んでアップダウンを調べる。次のノーダワまでほとんど横ばいのようだ。これなら大丈夫そうなのでゆっくり行こう。追分の峰から、遠くに雲取山らしきものが見えた。それを後ろ目に、今度はクマザザの繁る尾根道をずっと伝っていく。山の地形に沿ってくねくねと行く。遠く前方に見える山並みが大菩薩嶺であろう。あそこまで行かないといけないのかという絶望感も若干あるが、その分太陽が勇気づけてくれるので何も怖いことはない。山の形に沿って丸く尾根道を巻きながら、ついにノーダワに出る。
イメージ 511:50ノーメダワ  太ももが張って痛く、一歩一歩が辛い。ここでは三方に道が見え、先ほどから遠巻きにこの山塊に近づいていた時、左へ行く方が山の斜面を一直線に横切っていたので楽だろうと先入観を持ってしまった。道標は大菩薩峠1時間半と上に指している。10メートルほど進むと、そこから急斜面になっており、とても登り続ける気力が出ない。さきほどの横斜面のまっすぐな道で距離を稼いで、その間に足の疲れをとり、小菅からの合流地点から一気に上へ上がる方を選択した。しかし、それが失敗であった。遠くから見ると、真っすぐできちんと整備されているように思えた道が、実はあまり人の通りそうにない、しかも裏斜面で大雪が積っていた道であり、ほんとうに一歩一歩が辛かった。雪の中をかき分けて進むような感じである。10メートル進んでは少し休む。それを繰り返すので、一向に距離を稼げない。たった二つの山の尾根を越えるだけなのに、時間を忘れてしまうほどすごく遠い。
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  しかも、気がつくと空は青色からグレーに変わり、向こうの方の山は雲で覆われ始めている。快晴で穏やかな天気だからこんな積雪でも登れてきたのに、急に不安になってくる。雪崩で道がすっぽり隠されてしまったところもあり、ラッセルして自分で道を作りながら進む。崩れそうな場所も二つ三つ越えて、ようやく斜面を廻って分岐に出た。小菅への道だ。その道を死ぬ思いで一歩一歩う上へと足を引きずり上げる。もう少し頑張れという思いと、このまま小菅へと降りようかという不安な気持ちの戦いだが、体は上に向かう。予定では、この尾根を少し登り、斜面を廻って上の尾根道と平行に進んで、徐々に高度を上げてフルコンバ小屋跡で合流する。そう思いながら、左手の斜面を意識しながら、少しの登りだから我慢しようと一歩ずつ登って行く。ずいぶん右、左と折れながら登って行く。しかし、いつまでたっても登りだ。おかしいなと思い地図で標高を確かめる。右手はるかに見える今まで通って来た山が、目標よりも下になっている。ここまで登る前に斜面を巻いて行かないといけないはずだ。しかし、もう進むしかない。遥かに遠い目標だけど、十歩進んでは休み、はあはあ言いながら勇気をつけて、また十歩登る。ずいぶん繰り返す。頂上である尾根がかなり近くに見えるように思えてきた。一方、雲取方面の山は灰色の雲にすっぽり覆われていて、暗く、不安が募る。尾根の上の空が見えたような気がした時、分岐らしき道標が見えた。近づいてくるにしたがって直登であったことがわかってくる。すぐそこまでの所に来て、倒木にまたがって雪まみれになりながら乗り越え、又、付いた雪を払い、やっと分岐に出た。そこからは尾根道だ。
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  何だかホッとする。右手にノーダワへの下りの道をじっと見る。恨めしく感じる。安易なことを考えずにそのまま真っすぐ上がればよかったなという後悔が頭をかすめる。しかし気を取り直して、フルコンバ小屋への道を辿る。たった今、直登を喘いで来ただけに楽な気もするが、もうほんのちょっとの登りでも、太股が鉛のように重い。苦しい、重い足を30分引きずって、やっとフルコンバ小屋に着いた。
イメージ 914:15フルコンバ小屋
小菅への静かな道が続いている。この道を通れば楽だったのになと思ってしまう。さて、ここから大菩薩峠へは通常1時間だから、雪を考慮に入れても1時間半か2時間で着くだろう。ここまで来たらもう小菅に降りることは眼中になくなる。足は重いが、とにかく一歩一歩進むのみである。そのように最初は快調でも、やはりすぐ疲れて太股が鉛のように重くなってしまう。そこからは長かった。フルコンバの道標にはあと30分と書いてあったが、とてもとても。30分歩いてもまだまだ峠は見えない。また斜面を巻きながら進んでいくと、やがて大菩薩の尾根らしきものが見えてくる。時間的にはたいしたことではないはずなのに、はるか遠くのように思える。あと少しなのだから、這ってでも、一歩ずつでも進むしかないと自分に言い聞かせ、また一歩ずつ足を引きずっていく。やがて尾根の下に突き当り、左へカーブして進むと、右上の尾根がだんだん降りてきて、もうまもなくだと意識する。まだかまだかと10歩ずつ進むたびに思いつつ、やがてあと10歩のところに来た。最後の一登りを登り切り、ついに峠に立った。やった!お地蔵さんに感謝して両手を合せる。これだけ苦しかったのに、ほんとうによくやった。もう一度やり直せと言われても絶対できない。本当によく我慢した。
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イメージ 11  市立の休憩所で座って、最後のグレープフルーツジュースを飲みきる。山荘は閉じているようで人気がない。変わり易い空が、休んでいる間に吹雪っぽくなってきた。おじさんが一人通る。背中に下げたラジオから「上を向いて歩こう」が大音量でかかっている。この峠から大菩薩嶺を見上げると、今までの風景とは違って笹に覆われ、ところどころ岩が露出しているような景観になっている。もちろん富士山は見えない。とにかく早くバスに乗りたい一心で下ることにする。細い車道をずっと下って行くと、途中に一つ二つ三つと山荘があるが、どれも閉じている。その上、建物が古く、なんとなく淋しい感じだ。
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イメージ 1614:30雷岩
長兵衛小屋からは林道よりも近道のはずの登山道を降りる。適度に雪が積もっていて、クッションになり歩き易い。どんどん高度を下げて行く。このような下りならそれほど足を痛めないだろう。それでも慎重を期して、できるだけ足を地面に擦るようにして、膝にドンとショックを与えないように試みる。ただ完璧にはいかない。下の方に砂防ダムが見えてきて、登山道を下り切り、そこからまた林道を歩いて行く。時間があるのでゆっくり行く。途中、丸川峠への分岐があるが、他に何もなくやはり淋しい。だんだん日が沈む。高いところに北アルプスか、はたまた雲かわからないような塊の中に日が沈む。どうやら雲らしいが、暗くなった中、武田信玄ゆかりの雲峰寺の横を通り、集落に着いた。ひなびたお土産屋の隣にバス発着場があった。
17:30裂石
イメージ 18  本当に死ぬほどつらかった。お土産屋の電気は半分しかついておらず、人もいそうにない。周りを一周してみるが、他に店もなく、ビールを飲みたかったが買えない。バスが来るまで40分もあるので、長椅子に座って荷物を整理する。しばらくすると人の気配がして、反対側のドアがガラガラと開いた。店の人ではなく、紫のジャージの上下に包まれた中高生くらいの男の子で、ポテトチップスを買いに来たらしい。何度も店の人を呼ぶが、ついにはあきらめてお金を置いて帰った。やはり店の人はいないらしい。こんな淋しい雰囲気で、本当にバスは来るのだろうか。もし来なかったら歩いて行くしかないので、地図で塩山までの距離を見てみると、およそ4キロだ。これなら何とか歩いてでも行ける。188分になってもバスは来ないので、半信半疑になってくるが、じっと耳を澄ましていたら、やがていきなり大きなエンジン音がしてバスがやってくる。バス停の表示も時刻表にも期間営業とは書いてなく、信じて良かった。
18:10バス480
到着したバスは真っ暗な乗車場に入ってきていきなり入口を開けてくれるが、運転手の声はない。何となく幽霊バスか、となりのトトロの猫バスのようだ。しかし暖房が良く効いていて快適だ。嬉しい、やっとくつろげる。塩山市のきれいに澄んだ夜景を見ながらうとうとしていると、やがて市内に出て駅に着いた。運転手は言葉少なだ。
18:37塩山JR230円、ビール780
塩山駅で何か食べようかと思ったが、駅の反対側まで回ってみたものの何もない。あるのはタクシー数台だけだ。仕方なく駅構内に入って、キオスクで豆とビール2本買う。少しすると列車が入ってくる。
18:50
列車に乗り込んで、空いているクロスシートに座り、ビールを1本開けて飲み出す。特急列車の通過待ちでしばらく待たされたが、やがて発車し、ビール2本飲んでウトウトして、気がつくと終点の高尾に着いていた。
20:04立川
20:30東所沢ラーメン500