1993年5月29日「八ヶ岳硫黄岳」

1993529日「八ヶ岳硫黄岳」(計6,070円)
0:02新宿おにぎり、ビール1,700
夜行でウトウトしていると、甲府2時半に着く。乗客のうち、通勤帰りやその他の人たちはすっかり減っていなくなり、登山の人たちだけになる。
4:00甲府空がうっすらと明け、晴天である。
午後4時まで甲府駅に停車した後、朝焼けがうっすらと始まりだした頃、列車は出発し始める。右手には金峰山などの奥秩父連峰が聳える。小淵沢を過ぎると、晴天の中に八つの急な峰が聳える。左手には鳳凰三山などの連なる南アルプスが雪をいただき、雄大な姿を見せている。
5:38茅野JR1,090
茅野ではほとんどの人たちが同時に降りて、バス停に殺到する。とりあえず荷物を順番の並びにおいて、コンタクトを装着するためにトイレに向かう。ここでも人々の雑踏であり、しばらく待つ。その後水筒にアクエリアス系のスポーツドリンクを3本入れて準備万端にする。バスは渋の湯行きも多いが、美濃戸口行きも多い。ピラタスロープウェイ行きはポツポツの人たちで少ない。
6:05発バス1,100円、ジュース330円 私が乗る渋の湯行きは満員で、2,3人が立っている。
7:05渋の湯着
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 渋の湯で下車して、みんな登山の準備しているのを横目に先行して登り始める。初めて登山届を記入してポストに入れた。川を渡り、鬱蒼として湿気のある暗い森林の中を登っていく。あるグループの後をしばらく付いて行き、彼らが休みを取った分岐で追い抜いて上を目指す。あるところから残雪が固まっている道になり、滑りそうになりながらも着実に進んだ。
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 左右の高い峰がだんだん低く見えてきて、前方も青い空が見え始め、峠に近付いてきているのがわかってきた頃に黒百合小屋に到着する。
8:45黒百合小屋快晴
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 右手の天狗岳側には大きな雪渓が斜面を覆っており、写真を撮った後、荷物を再び背負って木立の中を進み、中峠に出る。
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 峠のイメージとはまったく違い、前方は切り立った崖の縁で、はるか下の森林が見下ろせるようになっている。先を急がねばならない。中峠には「現在、赤岳山頂小屋が改築中で8月までかかるので、他を利用して下さい」という案内が出されていた。と言っても、今日は赤岳を越えて清里に下るつもりだ。天狗の前庭を右手に見下ろすようになってしばらく頑張り、西天狗と同じ高さになってようやく東天狗山頂に辿り着く。
9:55東天狗頂上
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赤岳がやっと見える。南アルプスも見える。太陽のある東方は奥秩父連峰で、左手には北八ヶ岳の蓼科まで見える。すぐ後ろは西天狗、風はほとんどなく晴天の下、太陽にポカポカと照らされており、昼寝でもしたい感じだ。360度全開の絶景である。天気に恵まれている。前方には急激な下方から登ってくる人たちが見える。恐ろしいほどの傾斜である。ここを降りるのかと思うと少し気が弱くなってくる。この時点ですでに気持ちが後ろ向きになっていたのかもしれない。ただ、風がほとんどないそよ風の状態で、晴天で太陽がポカポカと照りつけている。ラジオをつけてFMを聴きながらおにぎりを食べる。便意もないのにやたら食欲が出る。いつもなら少し食べるとすぐトイレに行きたくなるのだ。運動によって体が正常な状態に戻ったのかもしれない。さて、はるか下方の人たちが登って来たのでそろそろ出発することにする。
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急に見えた坂も地に足がつけるもので、なんとか通り抜けていく。
イメージ 9 途中で外人二人と出会ったりしながら、ずっと森林の雪道を難渋しながら通って行き、夏沢峠に出る。
10:50夏沢峠
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 本沢温泉が崖のはるか下方に見える。夏沢峠のこまくさ荘は粗末な造りで、想像と全く違った。通り抜けて硫黄岳を目指す。硫黄岳の左方は切り崩れて恐ろしいほどの崖が突き出しており、コロラドの景観のようになっている。ここも頂上近くのケルンを一つ一つ地道に目指して越えて行き、やっと頂上に辿り着く。
11:45硫黄岳
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 硫黄岳頂上へあえぎながら登る。目前に横岳、赤岳、阿弥陀岳を見ている。迫ってくるほどスケールがでかく、しかも恐ろしいほど急傾斜で切り立っている。特に赤岳はよじ登るのも大変そうなくらい恐ろしく見える。今までのなだらかな夏沢峠から、遥か向こうの天狗岳のことが全く意識からなくなるほど恐ろしい景観だ。疲れもあるけど、積極的にあそこに登ろうという気持ちになれず、しばらく考えた。そうだ。あの赤岳は駄目だとしても、直前を迂回して清里に降りればいい。そうすればこのまま下って赤岳鉱泉から美濃戸口へ向かうより、硫黄山荘も赤岳天望荘も見ることができる。そのようにすれば、時間が遅くなっても電車などの交通の便も遅くまであるので安心だ。そのように意を決して硫黄山荘の方に向かう。
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 硫黄山荘の左前方には左へ横切っていく道が一本通っているが、道標がない。前方の横岳に登る傾斜を見ると、もう止めて清里に下りたい心境になる。しかしここまで来たのだから、赤岳は駄目でも、せめて横岳を通り、そのふもとまで近づいて天望荘を見てから帰りたい。またいつこのような天気の日に、これほど汗をかいて登ってこられるかわからないので、少しでも頑張って進みたいという気持ちになる。
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13:00横岳
横岳の方に登るが、バス停留所であれほどたくさんの人が八ヶ岳を目指したはずなのに、誰一人出会う人がいない。ここは人気がないのか。そう思っていた矢先、前方の狭い尾根で一人の男性がロープを張っていた。小屋番の人だろう。サングラスをかけていてサックス奏者のマルタのような雰囲気だ。こんにちわと声をかけると、低い声だが親切そうな優しい声で「あっ、こんちは」と返してくれる。その人を通り過ぎて進むと、ますます尾根は狭くなり、ついには前方が登ることができず行き止まりになる。岩の峰になり、鎖が見える。迂回路はなく、こんなところを伝っていくのかとブツブツ言いながら腰をおろしていると、さっきのマルタ氏が横を通り抜けて鎖を伝って去って行った。しばらく考えた。右下方に見える清里、野辺山方面にすぐにでも降りたい。しかし、この恐ろしい岩峰を鎖を伝って越えなければならない。下を見下ろすと今にも転落しそうな眺めだ。しかし、さっきのマルタ氏が先の頂上に立ったので少し勇気が出る。そこで岩を廻って鎖にしがみついて、そう20~30メートル進んでみた。けれどもやっぱり赤岳鉱泉方面の直下を見下ろすと足がすくむ。私は高所恐怖症なのだ。やっぱり駄目だ。清里に降りる分岐はすぐそこに見えているし、硫黄岳に引き返すのは嫌だ。同じ道は戻りたくない。ただ、思い返せば硫黄山荘から清里へ降りて行くような道標があったように思う。ひょっとするとそちらから迂回できるかもしれない。そう自分を納得させて戻る。結局、赤岳への道の鎖場の綱渡りにビビって引き返す。しかし、硫黄山荘には誰もいないし、道標もなく、清里に下れそうもない。左手の硫黄岳には赤岳鉱泉へ四人の人たちが下って行くのが見える。しょうがない。疲れてるし、来週のためにも今日中に帰りたいので下ることにした。
イメージ 1613:35硫黄岳頂上
イメージ 17 ケルンを一つ一つ目指して登り切るが、硫黄岳の山頂にはもう誰もいない。硫黄岳を下るが、尾根から外れると、雪の道で靴の中に水気が入る。だいぶん、そう1時間もかけて赤岳鉱泉に下った。
14:35赤岳鉱泉
そこからさらに1時間沢沿いを下って行き、民宿のあるところを通り過ぎてバス停に降りた。鄙びたところだ。美濃戸の三軒の山荘からバス停までの40分歩いた道は、白樺の林でたいへん美しかった。道路が舗装されておらず、車が通ると砂塵が舞い上がるのが欠点だが、蓼科高原の別荘地につながるだけあってとても美しい。しかし、山は想像と違って切り立っていて、八ヶ岳が高原状に連なっているのとは違っていた。赤岳天望荘からの眺めは良さそうだが、山全体の広さは大雪山鳥海山と比べるべくもなく、この山を一生の散歩道にして麓に住むほどの魅力は感じなかった。妙に観光化されている割に、山小屋はどれも古い。朝日連峰の途中にあった新築小屋のようなきれいさはない。登山客もシーズンになれば物凄く多そうだ。大雪のお鉢平からトムラウシまで広がる広大な大地から見れば、高原状のところも少ない。鳥海山の麓に広がる大パノラマに比べると、急登の森林を過ぎると岩だらけの急斜面の山頂がぽっかりと付いているようなもので、何だか物足りない。これらのことを考えると、八ヶ岳那須のような中途半端なところに別荘を持たず、高松に実家があるから、いっそ北海道にでも、特に富良野辺りに拠点を持った方がいいような気がする。安易に八ヶ岳が山も温泉もあるのでいいなと思っていたけれど、実際に行ってみると、もう一度是非にという気にはなれない。実際にこの目で見歩かないとわからないものだ。
16:15美濃戸口ビール430
美濃戸口でバスを待っている間、古い土産物屋でビールを買おうとした。しかし主人は身障者で歩くのもままならず、しゃべりもできない。420円のビールに1000円出してお釣りを待つが、ずいぶん待たされた上に、260円しかなく、一瞬わけわからなかったが、580円だろうと言うと、また一からやり直してとろとろする。バスの出発時間が迫ってきており、イライラして「もういいから」と言おうとしたら、お釣りを570円出した。もういいと観念してバスに飛び乗った。しかし、頭が悪いにしても、少なめに間違えるから怪しい。ひょっとして確信犯なのかもしれない。そうだとしたら許せない。
16:35発バス850
美濃戸口への下りの途中で右ひざを痛めており、茅野でバスを降りると足が動かない。相当無理をしたようだ。急な山は私には合わない。朝7時から16時過ぎまで9時間歩きっぱなしだった。その上、横岳頂上近くの標高2800mくらいまで登った。高山病にはほど遠い高さだが、9時間も険しい山道を歩いたことを考えると、体力的にはキリマンジャロも大丈夫かもしれない。あとは日程と思いきりだ。
17:23茅野駅ビール340
17:44JR230
20:55立川着