奇跡のみかん農園

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  著者30年前にお父さんのみかん農園を継ぎ、安全で美味しい果物や生搾りジュースでお客様を喜ばせ食の常識を変えることを目標にすえ、化学肥料や農薬を使わずに糖度の高い(甘い)みかんを作り始めました。口コミで増えたみかんのお客様は14000人、生搾りジュースはそうそうたる高級ホテルに卸し、銀座和光星野リゾートなどとも取引を始める予定だそうです。アマン東京の料理は、前菜からメインディッシュまで一皿ごとに少しずつ味が濃くなっていくなどすごく繊細で、全体のお皿がまるで一皿のような感覚に陥ってしまうほどですが、それに合わせた難しいジュースをリクエストするとそれ以上のものを作って応えるそうです。料理の味を邪魔しないように、改めて天然の甘さや酸味を活かすことを優先し、その他の味はそぎ落としていくように工夫したそうです。料理長からは、「谷井さんは受け身ではなく、自分のスキルアップのために頑張ろうとする。無理とは絶対に言わない。弱音を吐かない。その上アクションが早い。」と評してます。妥協せずに、些細なことにこだわって地道に研究と開発の試行錯誤を繰り返してこそ、質の高いクリエイティブな仕事ができるのです。

私の義父も有田でみかんを作っており、庭に植えているみかんでさえ非常に皮の柔らかいジューシーで甘いみかんが採れます。しかし、果実だとみかんの市場価格は1キロ100円前後ですが、味が良くても形が少し悪いだけで規格外となり、そうなるとジュース用にしか売れなくて、せいぜい10円が相場だそうです。しかし、谷井君は無農薬自然栽培の高品質なみかんだけでなく、美味しいフルーツジュースとして自ら加工・販売する6次産業化も行い、なんと240倍の2400円で売れるそうです。もちろん、ここまで成功するには徹底した努力をしているのです。無農薬で糖度が非常に高いみかんを作るのは難しそうですが、谷井農園では除草剤や農薬を使って雑草や害虫を排除することはしません。例えば、みかんの葉に付くハダニを駆除しようと農薬を使うと、農薬に強いハダニが増え出し、どんどん強い農薬を使わないといけなくなる悪循環に陥るのです。また、農薬や除草剤を大量に使っていると微生物がいなくなるので、どんな質のいい有機肥料を撒いても意味がなくなります。逆に「何もしない」ほうが、みかんの木を含めた草や虫が自分たちでそのバランスを保とうと働き始め、最初は草ぼうぼうでもある時期を過ぎると自然に落ち着いて雑草や害虫が自然に減っていきます。そうすることでみかんの木が持つ力が引き出され、土の滋養を吸収しながらすくすくと育っていくのです。“自然体”で、しっかり陽を当てて完熟させる、「手をかける」というのは肥料や水をせっせとやるということではなく、どうしたらいいかをきちんと考えて、きちんと対応するということなのです。自然はきちんと手をかければ手をかけるほど答えてくれます。ナイチンゲールの名言に、「種の撒き方で、収穫は決まる」ということに通じるように、人を相手にする仕事は、どれだけ人を感動させられるかがすべてです。収入や評価はその感動の数に比例していきます。料理人が、スタッフがオーダーを取ってきたものをそのまま調理するよりも、お客様の顔を見て「この方に食べて頂こう」と考えながら作ると、“気が入る”ので味が全く違ってきます。農産物の栽培も、収穫したものを詰める作業も同じで、配達するお客様のことを把握した上で、どんなふうに食べてもらえるか、お客様の好みはどうだったかを考えながら詰めていくと、同じみかんでも味が全然違うのです。目に見えないものに気を配り、磨いていくことが必要です。

彼は高校卒業後に浜松の永田農法を1年間学んだそうです。肥料を使うのではなく、適地適作、そして旬の時期に栽培するというシンプルな方法で、通常の100倍のビタミンCが含まれているみかんや、50倍の栄養価のあるトマト、30倍の栄養価のあるオクラなどを生産していました。永田会長は人脈が広く、特に凄いのは場をよく見ていて、相手が困ったり悩んでいたりしていることをすぐに見抜いて的確にアドバイスするそうです。その会長から、「とりあえず山に登りなさい。下界で山の頂上は見えんけど、雲の上まで登ってしまったらいろんな山が見える。人間も一緒だよ。」一つのことを極めて一流になると、他の業種でも一流の人たちに会えるようになって自分の視界も広がるということです。三代目サルバトーレフェラガモ氏からは、「ブランドの価値を高めるには、ひとつに特化して深く掘ることが大事」と教えてもらいました。比較的やりたいことでいいので始めてみて、やり続けてやり続けていると、いつか臨界点が来るとポンとはねるのです。経験を積む、これだと思ったらとことん突き詰めることだそうです。
  ITの発達でものごとの流れるスピードが速くなったせいか、待つことが出来なくなった人が多いようです。熟していないみかんを提供してクレームを言われてしまうのと同じで、自分の状態が万全でないのに周囲に認めてもらおうとしても、失敗することは目に見えています。一生懸命取り組んでいるにもかかわらず、全く実を結ばないような時もありますが焦りは禁物で、無心でものごとに向かって自分を磨くことに集中していれば、その時は必ずやってきます。だからこそ、なんでもやりたいことはやってみて、経験をしなくてはなりません。これだけITやヴァーチャルな世界が拡がるからこそ、「時間と汗を流した労働の積み重ねでしか生産できない仕事」が本当に重要になると思うので、「これくらいでいい」と妥協せずにおいしい商品を作り続けていきたい、とのことです。