1996年8月30日~9月5日「北アルプス縦走」②黒部五郎から双六・笠ヶ岳往復

1996830日~95日「北アルプス縦走」②
11:30鷲羽岳2924m)
イメージ 1 そこから火口湖を見下ろして下って行くが、三俣山荘はその下に見えているのにとても遠い。下りだけれどしんどい。先の方に二人下っているのが見えるが、ものすごく小さく遠く見える。逆に登ってくる人は5人連れのグループと一人のおじいちゃんとだけすれ違った。
12:25三俣山荘(2550m)
イメージ 2 ここから双六まで行くのはとても無理だと思い、黒部五郎の方に向かうことにした。巻き道だけど結局200mも標高を上げ、その上にアップダウンもあって死にそうになる。
13:40巻道分岐 やっと分岐に出るが、時間的に双六に行くのは不可能だ。だから荷物を背負って黒部五郎小舎に泊まることにする。下りも長く、途中で二人のおじさんに会うが、三俣への時間を聞かれたので、最初の人には双六に行った方がいいと答えた。しばらく平坦な尾根を通るが、やがて小屋への急降下となり、樹林帯の中を下って行く。そしてやっと小屋に着いた。
14:40黒部五郎小舎(2380m)素泊り5,000
イメージ 3 小屋は予想と違ってすごくきれいだ。泊まることにして良かったかもしれない。荷物を置いて、空身で黒部五郎岳を目指す。ガスがかかっていて不安な気持ちになる。今は空身だけれど、今日の12時間を越える登山は結構こたえていて、とてもきつい。しばらく進むと、黄色い葉のいっぱいあるカールに出る。
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 まさにこの世と思えぬ景色だけれど、先を急がないと行けないし、スタミナ切れでだるくて感傷に浸っている場合ではない。
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 そこからの行程はさらにほんとうに辛かった。そのカールを奥まで詰めて、一気に急斜面を登って頂上かと思っていたら違い、どんどん進んで高度を上げていくが、2600mのところにあったカールが本当の頂上直下だったのだ。頂上への急登に入った2670m位で雷鳥の夫婦と急に出くわし、私が登って行くと、逃げるように私が登ろうとする登山道を登って行く。追いかけるようになって気の毒だが、仕方がない。雷鳥はそのようにして追っかけっこをするようになるが、しばらく行ったところで左に折れてくれて助かる。その手前で少し休むが、下からおじさんが一人登ってきて勇気づけられる。ほとんど誰とも会わなかったからだ。しかしあっけなく抜かれてしまい、だるくて私は足が前に出ていかない。しばらく休みつつ何とか急登して尾根に出るが、地図で把握していたのと違ってそこからもしばらく距離がある。ようやく太郎平への分岐に着く。もう標高は2800m弱で、山頂まではあと少しのはずだ。また少し腰を降ろして休んだ後、ガスの中で不安になりつつも、ここまで来て止めるわけにもいかず、意を決して登って行く。そこからもきつかった。すぐそこが山頂かと思いきや、ガスの中に次々と向こうの方に高い山が出現する。さっきの元気なおじさんともすれ違い、独り取り残されて余計に不安になるが止めるわけにいかない。何とか一歩ずつを宙に浮いているような気分の中で登って行き、あと少しの所でまたバテた。吐き気など、貧血気味の高山病の症状だ。座り込んだまま元気もなく、チャックを下ろして真っ黄色の小便を出す。これで少しは高山病も和らぐかもしれない。そこからも遠くに見えた頂上は案外近く、山頂にやっと辿り着いた。
16:25黒部五郎岳2839m)
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 ガスに包まれている。写真を撮り、彼女とのことや、祖母の無事を祈り、だるい足を引き摺って下山始める。
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 途中何度も休んだ。途中から雲が少し薄くなり勇気づけられる。向こうの下方にある平地の先に小屋があるに違いない。カールで水を飲み、元気をつけて下る。もう一つのカールへも何とか下ると、この世のものと思われぬような黄色い葉で覆われた斜面に出る。本当にきれいな山だ。
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 そこからも何回も休みつつ、樹林を越えたら、やがて向こうの方に小屋が見えた。あと少しだ。少し休んでから、何とかだるい足を引き摺りやっと帰って来た。ガスも晴れて良かった。
イメージ 918:00黒部五郎小舎に戻る。小屋に入ってビール2本買って二階に上がる。部屋にはもう一人のおじさんだけだ。ビールを飲みながら荷物を整理する。この小屋にはストーブ付の乾燥室があって有り難い。濡れ物を乾燥室に干して、コンタクトレンズを外し、やっと旧小屋の奥の炊事場に行く。今日は14時間のほとんどを歩きっぱなしというハードな1日だった。雲の平を通らないと後悔しそうなので、敢えてそのルートを選択したが、薬師沢から雲の平への登りでかなりの力を使い果たした。ビール1,100
18:4019:55夕食で御飯を炊き始める。先にいる二人連れは太郎平のキャンプから来たそうで、明日は水晶から湯の俣温泉に下るそうだ。太郎平からはなだらかだそうだが、結構アップダウンがあって7時間くらいかかったそうだ。どちらから来ても楽ではないのかもしれない。
19:20隣で食事していた二人連れが食事を終えて帰って行く。私は牛丼と味噌ラーメンを食べ終わってくつろいでいる。とても静かだ。この食事棟は古い小屋だと思うが、新しい小屋ができたので臨時でこうして使っているのであろう。自炊の人にこうしたゆっくりとしたスペースを提供してくれるのでとても有り難い。ゆっくり眠って明日の笠ヶ岳に備えよう。
20:20就寝

92日(月)
 朝何度も夢を見ていたのか目が覚め、そのたびにポツポツと屋根を打つ小雨の音がする。明るくなってから出るしかないとまた眠るが、4時半の腕時計のタイマーの音に起こされる。
4:30 起床、小雨の様子、疲れが取れない。それまで少し熟睡していたようで、眠たくてしばらくそのまま横になっていたが、意を決して起きて自炊室に行き、お湯を沸かしてお茶漬けを食べ、コーヒーを飲んだ。自炊棟が古い山小屋の方なので、その古さになんだか郷愁を感じる。ヘッドランプで照らしながら食べた後、出発のために談話室に戻って支度していると、灯りをつけてくれて助かった。
5:30黒部五郎小舎発 霧の中を出発する。今日は天気が悪そうだ。覚悟して進み、急登してハイマツの樹林帯を抜けた2600m近辺から雲が飛び始めて、双六らしい山なみが見えてくる。真上は青空になっている。ラッキーだ。しかし、そこから三俣蓮華への登りは厳しい。ここも一歩ずつ登ってなんとか到達した。
7:00三俣蓮華岳2841m)
イメージ 10 ガスが途切れ途切れで黒部五郎はカールしか見えないが、笠ヶ岳方面は良く見える。頂上に三人の人たちがいた。双六に行ってから聞いたのだが、三人とも別々の人たちで、三俣山荘から登ってきているそうだ。そのうちの一人のおじさんは、昨日、三俣の巻き道から黒部五郎へ下る時に出会った人で、双六に行くか三俣蓮華に行くかで迷っていて、私がまだ2時くらいだったので双六に行った方がいい、ここの巻き道はずいぶん辛いと言って別れた人だった。頂上で水を飲み、正面に見える鷲羽の写真を撮って、先に出発した三人の後を追う。鷲羽から双六、笠ヶ岳方面のみ雲が切れている。
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 丸山で三人を追い抜いて、双六への標高差100mくらいのアップダウンを進んでいく。左はるか下方に巻き道が見える。
イメージ 128:058:20双六岳2860m)
イメージ 13 双六の山頂は広々としていて、ゆっくり写真を撮っていると、先ほどの三人が登って来た。
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それから双六小屋を目指して頂上高原をゆっくり下って行く。
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途中から小屋への急降下となり、家族連れをやり過ごして下り切り、分岐を越えて小屋に着いて水を補充した。
9:009:10双六山荘
イメージ 16 小屋でルートを確認したりして少し休み、荷物を預けて軽装で笠ヶ岳を目指す。また青いリュックのおじさんを追い越して行く。昨日会った人で、私のことを憶えてくれていた。そこからはずんずんガスの中を進んでいく。鏡平への分岐までは高原状でいい感じだけれど、ゆっくりしている暇はない。
10:15弓折岳(2588m)
イメージ 17 少し登った弓折岳の標識の所で少し休む。ここまで1時間だからいいペースだ。双六岳方面の写真を撮って出発する。大ノマ乗越(2480m)へ一気に下降し、そこから標高差180mの辛い大ノマ岳への登りとなる。急登というよりも岩の中の緩やかな登りで、気分のいい尾根だ。でも遊んでいる余裕はなく、やっとこさ登り切る。
10:55大ノマ岳(2662m)
イメージ 18 向こうの小高い所に黄色のレインコートを着たおじさんがいる。その人を追い越すと、遥か前下方に秩父平らしきカールが見える。左手が崩れて危ない尾根を鋸の刃を伝うようにどんどん下って行く。
11:25秩父 秩父平に降りて、そこで休んで水を飲む。地図であとはここを登るだけが辛いところだと確認して、雪渓の横を越えて100メートルくらいを一気に登り切る。それkら抜戸岳は200メートルくらい登った所だとタカをくくっていたらそうではなく、何とか登り切った所が頂上ではなく、そこから少し恐ろしい分岐を越えて、いつまで経っても、どんなに歩いても標高2800mの抜戸岳に着かない。小高いピークを5つ位越えたであろうか、やがて左手に高い山を巻く道を行き、少し下ると笠新道への分岐に出た。
抜戸岳(2812m)
イメージ 1912:40笠新道分岐 分岐で休んでビスケットを食べる。笠ヶ岳から下って来た三人連れのおじいちゃんおばあちゃんも休んでグレープフルーツを食べていた。山にはビタミンCが絶対不可欠だ。その分岐からは緩やかなアップダウンを繰り返す。結構バテているので進まない。岩の門のような間も通り過ぎていく。雲が切れてようやく頂上小屋が見える。そこからは岩のガレ場で、キャンプ地を越えて小屋に登り着いた。小屋に電話の印があるので、中に入ってコレクトコールを会社にかけようとしたが、かからなくて諦める。戸外でオレンジ100%ジュースを飲み、一気に頂上を目指す。
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 結構きつかったけれども、岩場をどんどん登るとあっけなく頂上に出る。左手の人がいる方に笠ヶ岳頂上の標識があった。
13:55笠ヶ岳2897m)
イメージ 21 まず水を飲み、疲れているおじさんおばさんグループに申し訳ないけど写真を撮ってもらい、今から双六に戻ることを話すと「欲張りなのねぇ」と言われ、出発する際に「気をつけてね」とも声をかけてくれる。笠ヶ岳山荘に下って会社に電話を入れて、気になっていた常務と取引先のアポイントを確認する。そして天候で日程が遅れるかもしれないことを伝え、ホッと安心して下りに着く。
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 ずいぶん尾根を歩くがなかなか分岐に着かない。やがて三俣山荘から双六で一緒になったおじさん二人と出会う。
14:50抜戸岳分岐
イメージ 23 それからは孤独な山行で、長い長い抜戸の尾根を行く。いつ終わるともないそれらしき山を5つも越えたであろうか、足にマメもできて辛い。しかし進むしかない。予定よりも遅れだした。ずんずん進んで、ようやく危険な鞍部を越え、そこから一気に秩父平めざして急降下していく。
15:40秩父
イメージ 24 何とか下り切って、秩父平で竹の棒を立てるべく石を集める。
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 そして今日の最大の難所である大ノマへの登りとなる。鋸の歯のような所を六つくらい登ってようやく着いたら、そこでブロッケン現象に出会えた。尾根の東は霧で、逆に西側は晴れていて太陽が私を照らしている。すると、ガスの方に大きな虹の円があり、その中心に私の影が仏様のように映され、頭の周りにも円形の後光が巻いている。虹のような円の色は、外から赤、黄、青、紫、緑、橙、赤だったと思う。もし昔の修験者がこれを見たら、自分に後光が射して悟りを得たと思うであろう。さて、大ノマ分岐への下りと長い弓折岳への登りを進む。
17:00弓折岳 鏡平の分岐の頃から槍ヶ岳が姿を見せる。穂高まで見える凄い景観だ。
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イメージ 2818:15双六山荘、槍・穂高が見えて圧巻。素泊・ビール6,300
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昨日上ってきた鷲羽岳方面
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小屋に戻って御飯を食べ、くつろいだ。
20:0520:47談話室 今日もごっつしんどかった。