1990年7月31日~~8月3日「北海道」①小樽・羅臼

1990731日~~83日「北海道」①小樽・羅臼
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7:55羽田空港 JAL503便 明日の利尻山は天気が悪そうだが、羅臼、大雪の方は大丈夫なようだ。まだ視界が良いかどうかはわからないが、最初が厳しい方がいいかもしれない。大気の営みを思う存分満喫して、自然の中で素直な自分になり、どうあるべきか、何を直すべき点なのかをしっかりと考え、すべてを洗い流して、しばらく新しい気持ちで再生できるようにしたい。
9:30千歳空港
10:13発 特急ホワイトアロー
10:40札幌
11:04
11:40
小樽着
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北一硝子本店→オルゴール館→ベネチィア美術館→グラスシップ→小樽工芸館→船見坂→小樽駅前→北一硝子本店→16:30小樽駅前→喫茶サンバコーヒー
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 昼から蒸し暑い小樽の街をずっとぶらついていたが、さすがに疲れた。昨晩の寝不足もたたっているのかもしれない。明日は雨が降るかもしれない。そうすれば登山は厳しいかもしれないが、それも修行と思って頑張ってみよう。
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 この喫茶店で店のおばさんと近所の人が話していたが、同窓会のために遠くから来た年配の人が、宿が一杯で全く泊まれないと言っている。ちょうどいい季節で混んでるのだろうが、二人が一生懸命になんとか宿を確保しようとしているのはなかなか微笑ましいものを感じる。地方都市ならではの人間の温かさが垣間見れていい。この町は明治の頃に商港としてたいへん繁栄したが、その名残である運河は町の堀のように海岸沿いにある。
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 夜、暗くなってライトが照らされると、きっといい趣を出すに違いない。今夜が楽しみだ。また、運河の町というのでヴェネチアに似たガラス工芸が盛んで、北一硝子店は何店舗も持ち、美術館まである。
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 薄く繊細なガラスは夏に最適で、特に透明のとっくりは冷酒を入れて飲むときっとうまいだろう。もし自分が将来店を作るのなら、器はこのように繊細なものを是非使いたい。あまり厚くなく、素材をほぼ完全に表現し得る自然流のものがいい。硝子の有田焼版なのかもしれない。前にヨーロッパへ旅行し、イタリアでヴェネチアグラスのペンダントを買った時、ガラスの美しさに初めて気がついたが、もっともっとその良さを生かしていろんなものを揃えて欲しい。何十年か先に店を出す時、またこの町に来るかもしれない。その時を楽しみにしたい。早朝までのいらいら、反省、やり切れなさが、時間に追い立てられない今、少しやわらいできた。このような安らぎが今ほんとうは必要なのかもしれない。少しいろいろと考えることが多すぎて自分で処理しきれずに、オーバーヒートしていたのかもしれない。先々週、せっかく鳥海山へ登ったのに、もう世間の波の泥まみれになってしまった。じっくりと考えなおしてみよう。
19:00駅前「アサヒグルメランド小樽」いくら重1500 まだ自分自身にかっこをつけている。周囲から見てどう思われているかを考え過ぎている。もし何も考えないなら、ほんとうに美味しそうな店に入るだろうし、店の様子をうかがったりしない。これが成長できない壁の一つだ。
深夜、小樽港発 利尻行きフェリー

81
6:30
沓形港
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8:40
9:10鴛泊バスターミナル
 曇り時々雨の天気の中、登山を強行するつもりで山に向かう車道を歩いたが、道に迷い、時間的なものでも迷い、もし下山に時間を取られると次の羅臼や大雪が間に合わなくなる。だから、悪天下の中で無理するよりも、晴れの期待できる次の山に賭けることにした。今日は船が相当揺れたので最後は気分が悪くなり、そのためにすべてが後手後手となって、タクシーは拾い損ね、島一周のバスには乗り遅れ、礼文島には行き損ね、すべて失敗の連続であった。何度も天気を睨みながら出発したが、なかなかうまくいかない。運が悪いのかもしれない。しかし、今ものすごい風と雨になったので、どちらにせよ登山は止めてよかったのかもしれない。バスの待合所で地元の男性だと思われる人が使う少し訛りの入った方言が、学生の時に根室の牧場で親方が、天気や仕事がうまくいかないとぼやいていた雰囲気に少し似ていて、何かほっとするものを感じた。
9:20泊港  フェリー1,850
11:10稚内
 稚内「藤花」でウニ丼(2000円)を食べた。舌が肥えていないから通が好きそうなものはよくわからないが、これはさすがに美味しいと思った。あったかいご飯の上にウニが敷き詰められていて、刺身醤油を少しずつかけて食べる。握り寿司では変わった味だなと一瞬思うだけのことかもしれないが、じっくり食べるとあっさりしていて、臭みもまったくなくて非情に美味しい。お菓子の甘さやステーキのような強烈な圧倒感はないが、ご飯が何杯でも食べられる旨さだ。海産物はあまり得意ではないが、この雰囲気で、この特産物なら、ちびちびと呑みながらつまむと、きっと旨いだろうなと思う。しかし、現地でも2000円と安くはないので、お茶漬けや納豆の感覚では食べられない。たまに、しかも、遠い北国で食べるから、美味しさが倍増するのかもしれない。
12:56発 急行宗谷 旭川で特急ライラック乗継ぎ 今、特急ライラック岩見沢を過ぎ、札幌まであと20分のところまで来た。今日は利尻まで渡ったが、天候に恵まれずに、島内をバスで通っただけであまり感動などの思い出が残らなかった。今でも空はどんより曇っているが、これから三日間の天気が心配だ。これも運命だから従うしかない。札幌では3時間あるのでゆっくりと遊んで行こう。これで満足できれば、最終日に急いでまた札幌に戻ってくる必要もなくなる。天気に恵まれないのは、今までの天との約束をまったく果たせずに、また北海道に来たからかもしれない。それをはっきり自覚できるまで、何とか試練を乗り越えていこう。
18:32札幌
19:00Dance(ヘルス)
22:50発 急行大雪
82
 6:02網走着
 6:47網走発
 7:25斜里着
 8:00発 バス1,600
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9:10岩尾別 4km歩く
10:00
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 網走、斜里までは晴れていたが、斜里岳・知床連山は上空に雲がかかっている。上まで登れば見渡せるだろうと甘く考えていたが、岩尾別温泉の山小屋で急に夕立のような雨が降る。少し考えたが、木下小屋にも満員の掲示があって泊まるわけにいかず、利尻で強行しなかった後悔もあり、一気に上り始めた。霧と強い雨で、重い荷物のせいもあり、道程がたいへん辛い。まわりは薄暗く、ダケカンバやブナ林の中、クマザザがあり、石の多いこの山には苔が繁殖している。ほんとうに侘び寂びの世界だ。私が好きなのは、ある程度高度が高くなって高木が無くなり、ハイマツとクマザザやお花畑になっている高原で、よけいなものがなく、簡単明瞭なのが好きな自分の考え方にも合っているのかもしれない。逆に考えると、森の深い息吹、つまり草や木の生きている感触や、その陰に隠れている多くの動物たちが高原においてはあまり感じられず、生きているという生活感よりももっと大きな自然を感じられるかもしれない。大気、空、山、そして宇宙、しいては真理。茶の湯が目指したものは、自然を肌で感じ、四季折々のものをもっと大切にして、自然の中に五感で感じる自分を置くことによって目覚めようとしたものかもしれない。しかし、さらには生活感あふれた世俗を切り離し、超自然的なもの、宇宙の真理へと向かっているものかもしれない。密教もそうで、釈迦を飛び越えて、ほんとうはインドで発達した宇宙学、真理学というものを読んだことがある。宇宙科学や数学で解明していくのは、先進諸国、今のアメリカやヨーロッパが進んでいるが、古くから宇宙や自然の真理についての違った方向からの考察がなされていたのかもしれない。何とかこれを解明できないものか、空海真言密教から考えて、学習してみたい。高原や山の上の何もないところに自分の身をさらしていると、すべての汚い気持ちや、その気持ちを起こさせる世俗感がなくなり、良いように言えば素直になれるようにも思える。海辺では潮の大きな音が生きている感じを強く印象付けられて忘れられない。その点、山の上は静寂で、誰も容易には寄せ付けない。そこにひっそりと暮らしている慎ましい花もいい。謙虚な美しさを印象付けられる。2時間半ほど行く間、きっと晴れていたらオホーツクがきれいに見えるであろう場所を越える。
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 やがて雪渓の谷間に出て、そこからは岩登りが続く。少し登っては休み、引き返すこともできないので、また思い立っては歩き始める。もう少しで頂上という所はさらに急で、流れる雲が下方から吹き上げてきて、振り向くととても恐ろしく、眺めていると不安が募る。引き返すことも恐ろしく、じっと待つこともできずに上を目指して登っていく。やっと急な斜面が終わり、しばらくなだらかな平地を行くと羅臼平に着く。
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 テントが一つ見えてホッとするが、それ以外に人の気配は全くない。風は止まず、霧で全く何も見えない。運の悪さに本当に嫌になり、一日ずらせばよかったなと後悔する。バスの時間が気になりだして、テントの人に羅臼方面への道を聞いたけどあまりわからず、道標を確かめて進む。テントの人から「気をつけて」と言ってくれて、誰もいない霧の中で本当に心強かった。
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 羅臼側も雪渓から始まり、上部を通って灌木の嵐の海を過ぎ、暗く風の吹き降ろしてくる中を雪渓を横断し、やがて岩ばかりの谷を降りはじめる。途中で雪渓の中から流れてくる小川の水は美味しかった。冷たいけれど、口の中に含むとそれほど冷たくもなく、ずっきりともしていないが、甘く飲みやすい。六甲の水などのロックアイスが融けたのを飲んでるみたいだ。ずいぶん下ったような気がしても延々と道は続くが、だいぶん経ってやっと森に出ることができ、遠くの方の空が少し晴れてくる。やがて硫黄の臭いがして、小川のせせらぎがどんどん大きくなってくる。
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 テントが見えて、やっと到着したかと思ったが、そこはまだ泊場だった。硫黄の白く黄色い付着物が川底の石にへばりついて、北嶽温泉のようだ。やっと晴れてきて、日の光にキラキラと輝く。なかなか見られない景色かもしれない。ただ、疲れとバスの時間が迫っていることでのんびり観賞している場合ではない。どんどん下っていくが、途中で疲れて木の上に10分くらい寝たりもしながら、泊場からは地図通りに2時間もかかる。知床横断道は見えているのに、行けども行けども一向に近づかない。
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16:45半分あきらめの気持ちも出てきたが、それでも降りていき、
ようやく知床横断道に出る。
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16:50バス停 バスは10分前に出たところだった。ハイヤーで斜里まで戻ることも考えた
が、疲れがどっと出てきて、ビジネスホテルに泊まることにした。服を着替えて羅臼の街に出る。旨いものを食べようと寿司屋や居酒屋の前を行ったり来たりしたが、結局、炉端焼きを見つけて入る。羅臼の刺身とさんま、牡蠣鍋を食べる。ビール2本で腹が一杯になり、疲れた足取りで帰る。よく考えると、朝から何も食べていなかった。宿に帰るともうぐったりですぐ寝込んでしまいそうだったが、20分ぐらい休んだ後、思い直してなんとか風呂に入って体中を洗い、戻ってすぐに寝込んだ。ほんとうに熟睡した。
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9:45羅臼 阿寒バスでウトロに向かう。(2280円)
快晴になり、知床峠に着くと羅臼岳が全身を見せている。
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 それだけでも魅せられる威容を誇っているが、昨日激しい雨と風、霧の中、頂上直下まで行って全身ボロボロになった私には、特に感極まるものがある。バスが少ししか停車しなかったので長くいられなかったが、本当にどうしようもない気持ちになった。
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 すごそこに見えている頂上から今眺めれば、どんなに素晴らしい眺望が広がっていることだろう。太平洋側に少し残っている雲の上を通して、国後、択捉、反対側には晴れ渡ったオホーツク海、そして遠く網走から、紋別稚内に至る海岸と、北にのびる知床半島、その周辺にあるすべてのものが見渡せたはずだ。もう一日ずらしていれば、利尻も羅臼も最高だったかもしれないが、今となってはどうしようもない。他に持って行き場のない後悔が襲ってくる。羅臼岳の写真を何枚も撮る。そして、何度も振返り、晴れ渡って輝いている。Bガスに乗車してからも、雄大な山容を何度も見返した。斜里に向かうバスの中でいろいろ考えた。努力するという約束を少しも守らずに成長していない私を、利尻山羅臼岳も激しい自然で追い返そうとした。結局、その素晴らしいものに直接触れて感動することができないまま、日数だけ経過している。
11:50
斜里 ボリュームたっぷりな野菜チャーシュー食べる。800
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13:04斜里発
13:27
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 今、原生花園にいるが、昨日すぐ下の羅臼平まで行ったのに、まさに霧中で何も見えなかった。ここからも羅臼岳がはっきり見える。それだけでなく、知床岳から硫黄山に至るまでの知床半島の稜線が手に取るように一望できる。
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 これはいったいどういうことか。巨大な姿を見せていた羅臼岳が、もう一度、昨日の修行のご褒美としてラストチャンスをくれたのか。もう一度帰って、ほんとうに努力を続けて約束を守ったら、このように素晴らしい天候で迎えてくれるというのだろうか。もう一度来たい。もう一度、今度はカムイワッカから羅臼の方へ縦走したい。まだ努力が足りないから、今回で北海道を終わりにしてはくれなかった。知床連山もオホーツク側は晴れているが、太平洋側に雲が広がってきた。よほど心がけが良くないと、登山日和に巡り合える幸運は訪れないのかもしれない。もっと時間に余裕を持っていけばよかった。
18:00原生花園
18:21網走(日没は19時くらい)
「魚松」「赤川商店」で、本数の子1500円、オホーツク詰め合わせ1000円、流氷の旅500円×2個を宅急便で送る。46歳くらいの細身のご主人は、お勧めを聞いても、すべての商品を詳しく説明してくれた。やさしくて温かい人柄が伝わってくる。
「鮨勝」でオホーツクの盛り合わせ2000円を食べる。ネタを一つ一つ説明してくれながら食べる。よく覚えきれなかったが、どれもネタが厚く新鮮で、本当に旨かった。ただ、ウニは稚内で食べたウニ丼の方が臭みもなく、旨かったような気がする。
21:46
網走発 急行 大雪
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