アーサー・ヘイリー「ストロングメディスン」1988年5月25日

 イメージ 1薬品や医師業界の内幕を見事に描いています。利益を得るために膨大な資金をかけて開発される新薬、激しい競争、副作用などのリスクと隣り合わせの内幕、さらには、医師の中にもドラッグ中毒で身を滅ぼして行く人もおり、それを立場上誰も指摘できないまま見て見ぬふりをされ、問題が起こるまで、つまり患者に犠牲者が出るまで放置されている現実、そのようなことが生々しく展開します。もちろんフィクションですが。
例えば、風邪をひいた時には、水分を取って暖かくして休養をとり、自然治癒を待つべきで、わざわざ医者にかかったり、市販の高い薬を飲んでも実はあまり意味がないことはよく聞かされます。確かにテレビの広告は効果があり、風邪薬もまるで特効薬のような印象を洗脳されてしまいます。本書である医師が言うには「風邪を引いたら、家へ帰ってゆっくり休み、水分をたくさんとってアスピリンを服むことだ。それしか方法はない。科学が進歩して風邪の療法が見つかれば話は別だが、聞く所によればそれはまだはるか先のことだ。だが、治るはずがない風邪を治そうとして年間5億ドルもの金を費ってくれる人たちがいる。」「製薬会社が誇大宣伝して、それを必要としない人間や、買う金のない人間、あるいは使用してはいけない人間に、徹底した物流セールスキャンペーンによって手当たり次第に医師に処方させている。そしてある薬が爆発的に売れると、他の会社も貴重な研究時間と大金を費やして、分子構造だけいじった別の名前を付けた同じ効能の薬を作り、特許を取って大儲けしようとする。そのような便乗薬は多すぎるくらいある。そのような間違った薬の研究のために膨大な開発費が使用され、それが社会保障を破産させている。」
そう言えば、たしかに日常の風邪薬のテレビ広告の頻繁さが思い浮かびます。この本が書かれてから30年以上経過していますが、風の特効薬はできたのでしょうか?